肝臓と肝炎

検査のお話

肝臓は胸とおなかを区別する横隔膜のすぐ下、胃の隣にあり、右上腹部のほとんどを占めています。重さは1kg〜1.2kgで、からだの中で最大の臓器です。肝臓は、腸で吸収されたさまざまな栄養素を代謝、貯蔵したり、胆汁の生成や分泌、体に有害な物質の解毒など、生命の維持に必要な多くの働きを行なっています。
<肝臓の働き>
代謝 食べ物からとった糖質・蛋白質・脂肪などの栄養素を体内で使える形に変えて貯蔵し、必要なときにエネルギー源として供給します。
解毒 アルコール、薬、老廃物などの有害な物質を無毒化します。
胆汁の
生成・分泌
肝臓でつくられた老廃物を流す「胆汁」を生成し分泌します。
(胆汁は、脂肪の消化吸収を助ける働きをします)
この生命維持に欠かせない肝臓の調子が悪くなると様々な症状があらわれてきます。

しかし、肝臓の病気にかかってもすぐには症状がでにくいことから、肝臓はよく「沈黙の臓器」といわれています。

 症状がないということは、知らないうちに肝臓の病気が進んでしまっているという状態を招いてしまうことも少なくありません。
<肝炎とは>
肝臓が何かの原因で炎症を起こしている状態を、肝炎と言います。
肝臓は、病気・事故・外科手術などで一部が失われたとしても、肝細胞が増殖し、ほぼ元の状態まで再生されますが、肝炎が慢性化し、肝臓を障害し続けると肝硬変へと進行し、元の状態に戻らなくなってしまいます。
肝炎はいろいろな原因でおこりますが、日本でもっとも多いのは肝炎ウイルスに感染しておこるウイルス肝炎です。肝炎ウイルスとして認定されているのは、A型・B型・C型・D型・E型の5種類があります。A型とE型は、汚染された飲食物の経口感染よるもので、衛生環境の整った日本ではあまり見られなくなりました。D型は、B型に関係したウイルスと考えられています。

B型(HBV)とC型(HCV)は、血液・体液を介して感染します。 
主な感染経路は、麻薬濫用者の注射針の回し打ち、不衛生な状態での刺青、ピアス、出血を伴う民間療法などが知られています。 HBVに関しては、性交渉での感染、HBVを保有する母親から出産された子供への垂直感染も感染経路となります。

 現在では、輸血などの血液製剤や滅菌不十分な医療器具の使用による感染は事故以外ほとんど見られませんし、注射針も再利用することはありません。 どの型の肝炎も、場合によっては劇症肝炎(急激に肝細胞が大量に破壊される重症の肝炎)をおこし、亡くなることもまれにあります。ただし、D型やE型肝炎の日本での発症はきわめて少なく、E型肝炎は蔓延地への旅行後に発症した例がまれに報告されるのみです。 その他には、アルコールの飲み過ぎで肝臓機能が低下するアルコール性肝障害、毒物で肝臓が障害される中毒性肝障害や薬によって肝臓が障害される薬剤性肝障害、免疫機構が何らかの原因で異常をきたし、肝障害を引き起こす自己免疫性肝障害などがあります。

急性肝炎 肝炎ウイルスやアルコール、薬などによって肝細胞が壊され、炎症が起こります。ウイルスに感染した場合、数週間から数カ月後に発症し、からだのだるさ食欲不振、黄疸などが現れます。
ウイルス性の急性肝炎は原因のウイルスを排除できれば、数カ月で症状が治まる場合もあります。
慢性肝炎 約6カ月以上の間、肝臓の炎症が続いている状態です。
自覚症状がとても軽いため健康診断の血液検査で偶然に見つかることが多いと言われています。放っておくと肝硬変や肝臓がんになることもあるため、注意が必要です。
劇症肝炎 初期症状は急性肝炎と同じですが、普通の急性肝炎の場合は黄疸が出て1週間もすると自覚症状が和らいできますが、劇症肝炎の場合はますますひどくなり肝性脳症という意識障害が出るのが特徴です。
急性肝炎の中で約1%の方が劇症肝炎になるといわれています。
<肝機能に関するおもな血液検査>
「沈黙の臓器」といわれる肝臓ですが、血液検査で肝臓の状態を知ることができます。
肝臓には、たくさんの血液の通り道があり、それぞれの細胞が血液の通り道に接しているために肝臓に問題が起こると、肝臓内の物質が血液中に漏れ出します。
そのため、肝臓から漏れ出た物質を調べることで肝機能を知ることができます。
 
検 査 値 基 準 値
ALT(GPT) 5〜45  IU/L
AST(GOT) 10〜40  IU/L
γ-GTP 男性 80  IU/L以下
女性 48  IU/L以下
ALP(アルカリホスファターゼ) 130〜350  IU/L
総ビリルビン 0.2〜1.2  mg/dL
総たんぱく 6.7〜8.3  g/dL
アルブミン 3.8〜5.2  g/dL
LD(LDH)(乳酸脱水素酵素) 80〜200  IU/L
コリンエステラーゼ 男性  242〜495  IU/L
女性  200〜495  IU/L
血小板 14〜34  万/μL
HBs抗原・抗体 HBe抗原・抗体 陰性 (−)
C型肝炎ウイルス抗体 陰性 (−)
上記は当院での基準値です。施設・測定方法により基準が若干異なります。
このほかにも超音波検査、CT検査、MRI検査といった画像装置を用いて、肝臓の大きさや形、腫瘍の有無、血管の状態などを 調べたり、肝臓に針を刺して組織を採取し、その組織を顕微鏡で見て診断を行う肝生検といった検査を行う場合があります。
 

上記にあげた血液検査の項目は健康診断にも取り入れられている基本的な検査項目です。
当院でも一部(ウィルス検査)を除いては当日検査結果をお知らせできる体制をとっております。
定期的に受診していただき、健康管理をしていただくことをお勧めします。

特定健康診査をきっかけに、一度ご自身の検査結果を見て頂きたいと思います。検査の内容で気になることがある方は、お気軽にご相談下さい。



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