「風邪に抗生剤」はもう古い!

お薬の話

 皆さんのなかに、「風邪をひいたら病院で抗生剤をもらって治そう」、と思っている方はいらっしゃいませんか?
その考え、実はもう古いかもしれません。

 一般的な「風邪」の原因は「ウイルス」による上気道炎がほとんどなので、抗生剤はまず効きません。抗生剤がウイルスをやっつけることはないのです。安易に抗生剤を使うことで耐性菌を増やしてしまったり、善玉菌を抑えてしまい悪玉菌を増やす原因になったり…と、症状が良くなるどころか、却ってよくないことを引き起こします。一般的な「風邪」の治療は、高熱で辛ければ解熱剤、咳が止まらなくて辛ければ咳止め、などの「症状」を抑える対症療法しかありません。十分な栄養と水分補給、静養により自己免疫力を高めて治すのが一番です。
もちろん、細菌が原因の病気(中耳炎や肺炎など)には抗生剤が有効ですし、ウイルスによって傷ついた粘膜から常在菌が入り込んで悪さをするような「二次感染」には抗生剤が有効な時もありますので、必要な時に必要な抗生剤をきちんとしっかり使うことが大切です。

 薬剤耐性菌とそれに伴う感染症の問題は国際社会でも大きな課題となっています。このまま不適切な抗生剤の使用が続くと近い将来、感染症の治療に有効な抗生剤が存在しなくなるという脅威が迫っているため、2015年の世界保健総会での採択を受けて2016年4月に日本で「薬剤耐性対策アクションプラン」 が策定されました。さらに、抗生剤の適正使用を推進するために、2017年6月に厚生労働省から「抗微生物薬適正使用の手引き 」(以下、「手引き」)が発表されました。そこでも「風邪」には抗生剤を使用しないことが推奨されています。

 一方で、抗生剤を使用せずに済むような「感染予防対策」をしっかりと行うことも重要になってきます。
当院では先日「感染症予防のおはなし」という地域公開講座を開催し、内科の西澤先生から、 手洗いとワクチン接種が大事であることを解説していただきました。先述の「手引き」の中でも感染予防として

①手指衛生(手洗い)
②ワクチン接種
③咳エチケット
④うがい

などについて掲載されています。とにかく感染予防のためには手洗いをこまめに実践することが第一です。その上でインフルエンザや肺炎球菌などのワクチンを積極的に接種して予防に繋げましょう。

 風邪で抗生剤を出さない医師は、むしろ良心的な医師だと言えるでしょう。患者側も感染について学び、むやみに抗生剤を欲しがったり、調子が良くなったからと自己判断で休薬したり、その余った抗生剤を家族や友人にあげたり、…このような不適切な使用をしないように、意識改革をしながらしっかり考えて行動していくことが必要かもしれませんね。

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