心筋梗塞

検査のお話

 冬になると増加する疾患と言えば、皆さんは何を思い浮かべますか?
インフルエンザ?ノロウィルスによる胃腸炎?これらも冬に増加する疾患ですが、寒くなると血管が収縮して起こりやすくなる心筋梗塞や脳梗塞も、冬の代表的な疾患になります。
今回は、そのひとつである心筋梗塞についてお話していきます。


=どんな病気か=
 狭心症、心筋梗塞などの虚血性心疾患は、心臓を養う冠動脈の動脈硬化により血管の内腔が狭くなり、血液の流れが制限されて起こります。冠動脈が閉塞すると約40分後から心臓の内膜側の心筋が壊死に陥ります。これが心筋梗塞です。
壊死は次第に心臓の外膜側へ波状に広がり6〜24時間後には貫壁性梗塞となります。 同じく冠状動脈の動脈硬化に基づく狭心症は心筋の壊死がなく、心臓本来の働きであるポンプ機能が正常に保たれているのに対し、心筋梗塞では心筋が壊死に陥ってポンプ機能が障害され、壊死が広汎に及べば心不全やショックを合併することもあります。
最近の医学の進歩で急性心筋梗塞の死亡率は減少していますが、現在でも5〜10%程度と侮れません。急性心筋梗塞の半数には前駆症状として狭心症がありますが、残りの半数はまったく何の前触れもなしに突然発症するので、予知が難しい事が問題です。 心筋梗塞は発症からの時間の経過で治療法も重症度も異なるので、発症2週間以内を急性、1ヶ月以上経過したものを陳旧性とするのが一般的です。 陳旧性心筋梗塞の重症度は、心機能(心筋壊死の大きさ)と罹患枝数(狭窄を起こしている冠動脈の数)で規定されますが、この段階になると心筋の保護と動脈硬化の進展を抑えて次の心筋梗塞の発症を防止することが重要です。動物性脂肪を控える、禁煙、運動などの生活習慣の改善が大きな意味をもってきます。


=原因は何か=
 今まで、冠動脈の粥腫(おかゆ状の病変)は長年にわたって直線的に増大し安定狭心症の状態から狭窄度の増大とともに不安定狭心症へ、さらには内腔が完全に閉塞することにより急性心筋梗塞を発症すると考えられてきました。

粥腫:コレルテロールエステルを中心とした脂質成分、繊維などの細胞外 マトリックス、平滑筋細胞やマクロファージなどの細胞成分からなる



 最近では、不安定狭心症や急性心筋梗塞は、『冠動脈壁の粥腫の崩壊とそれに引き続いて起こる血栓の形成のために、冠血流が急激に減少する』という共通の病態に基づいて発症するものと考えられるようになり、まとめて急性冠症候群と呼ばれています。 ただし、すべてがこれら粥腫の崩壊に基づいて発症するものではなく、狭窄度が徐々に進行したもの、また日本では冠攣縮(冠動脈の血管平滑筋の過剰な収縮)によるものも少なくはありません。
粥腫は動脈硬化により形成されます。動脈硬化は動脈が弾力性を失ってもろくなった状態で、年齢と共に徐々に進行しますが、人種差、体質や外的要因によっても進行度に違いがあります・ 冠動脈の動脈硬化を進行させる因子を冠危険因子といい、高コレステロール血症、高血圧、喫煙、糖尿病、肥満、痛風、中性脂肪、運動不足、精神的ストレスなどがあげられます。


=症状の現れ方=
 急性心筋梗塞は多くの場合、胸部の激痛、絞扼感(締め付けられるような感じ)、圧迫感として発症します。胸痛は30分以上持続し冷汗を伴うことが多く、重症ではショック状態を示します。胸痛の部位は前胸部、胸骨下が多く下顎、頸部、左上腕、心窩部に放散して現れることもあります。随伴症状として呼吸困難、意識障害、吐き気、冷汗を伴う時は重症のことが多いとされています。 高齢者では特徴的な胸痛ではなく、息切れ、吐き気などの消化器症状で発症することも少なくありません。また、糖尿病の患者さんや高齢者では無痛のこともあり、無痛性心筋梗塞は15%程度認められます。
狭心症の患者さんで症状の程度がいつもより強くなったり、回数が頻回になったり、軽い労作で誘発されるようになった場合には、不安定狭心症や心筋梗塞に移行する可能性があるので、直ちに専門医を受診するのが安全でしょう。


=検査と診断=
 急性心筋梗塞は特徴的な強い持続性の胸痛と心電図の所見、血清酵素の上昇から診断されます。心電図検査は簡便な検査ですが、急性心筋梗塞の診断に極めて有用です。 発症直後ではT波の増高だけしか認められず専門医でないと見逃すこともありますが、2〜3時間後には特徴的なST上昇が認められます。心電図のST上昇を示す誘導箇所から心筋梗塞の場所、どの冠動脈が閉塞しているかがわかります。さらに時間が経過するとR波が減高し、Q波の出現を認めるようになります。




ただし、心臓の後ろ側の心筋梗塞など一部の症例では、急性期でもST上昇を認めず、ST低下として表現されることもあるため診断が難しいこともあります。 このような場合には心エコー検査で心筋の壁運動を観察して診断の補助とします。また、胸痛の原因が心筋梗塞なのか大動解離などの他のあるのかの鑑別診断にも心エコーは有用です。慢性期の陳旧性心筋梗塞では、梗塞の部位に一致した誘導で異常Q波と陰性T波を認めます。


=血液・生化学検査=
 心筋梗塞の急性期には壊死に陥った心筋から心筋逸脱酵素(CK、CK-MB、GOT、LDHなど)が放出され、血液中で上昇します。最近ではベッドサイドで簡単に測定できるトロポニン、心臓型脂肪酸結合蛋白の測定が有用です。 しかし、いずれの酵素も心筋梗塞の発症から血液中で上昇を始めるまでには時間的にずれがあります。いちばん早く上昇するとされるCK、トロポニンでも血液中で上昇してくるのは発症3時間後ぐらいからです。したがって、発症直後であればたとえ心筋逸脱酵素が上昇していなくても、急性心筋梗塞を否定することはできず、必要があれば時間を追って繰り返し測定しなければなりません。
発症早期にはミオグロビンの測定が有用ですが、心筋特異性が低いのが欠点です。またGOTは肝障害や溶血で上昇し、CKは骨格筋にも多く含まれているので、運動後や筋肉注射後にも上昇します。その鑑別には、心筋に特異性の高いCK-MBの測定が有用です。


=治療の方法=
 急性心筋梗塞の治療は一般的治療と特殊治療に分けられます。急性心筋梗塞は梗塞の範囲が広いほど予後が不良になるので、できるだけすみやかに詰まった冠動脈を再開通させる治療(再灌流療法)が重要です。 再潅流療法には、静脈ないし冠動脈から血栓を溶解させる薬物(組織プラスミノーゲンアクチベータ)を注射する方法(血栓溶解療法)と、カテーテル検査に引き続いてバルーンによる拡張術やステントを留置する方法(冠動脈インターベンション)があります。
血栓溶解療法には出血性合併症の問題があり、血栓が溶けても高度の狭窄病変が残ることも多く、日本ではインターベンション治療が一般的に行われています。発症6時間以内であれば、再潅流療法により心筋壊死の範囲を狭くすることが可能とされ、一般的には12時間以内がインターベンション治療の適応とされています。 一般的治療として数日間の安静・絶食、鎮痛剤、安定剤の投与、酸素吸入が必要です。抗血栓薬としてアスピリンは急性期から投与し、継続的に心電図を監視して重症の心室性不整脈が現われるのに対応できるようにします。
心筋梗塞後には、生命予後の改善効果が示されているACE阻害薬ないしアンジオテンシン受容体阻害薬を投与します。さらにβ遮断薬も死亡率を減少させることが明らかにされています。ただし、日本人には血管痙攣による狭心症も多く、β遮断薬の使用には注意が必要です。日本ではカルシウム拮抗薬もβ遮断薬と同様に有用とされています。
退院前には生活習慣を是正して、必要があればコレステロールを低下薬(スタチン製剤) などを服用して、長期予後の改善を図る必要もあります。


=病気に気づいたら=
 前記のような強い胸痛があれば、すみやかに救急車で専門医の診察を受けることが大切です。 この様な症状が現れる前に、普段から検査を受け、自分の身体を知っておくのもいいと思います。当院でも心電図検査や心エコー検査を実施しています。 何か気になることがございましたら、お気軽にご相談ください。



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