「糖尿病性腎症の食事」って?

栄養科コラム

糖尿病の食事療法をしていたら、医師から「腎症を合併したから低たんぱく食の食事療法にして下さい。」または「腎機能が低下してきているので栄養士に糖尿病性腎症の食事療法を教わってください。」などと言われたことはありますか?

腎症の食事療法はたんぱく質を減らし、その減らした分量に相当するエネルギー量を炭水化物や脂質で補ったり、病期によっては総エネルギー量を増やしたりすることもありそれまでの糖尿病の食事療法と内容が変わってきます。

このため、糖尿病の食事療法をきっちり行っていた人ほど新しい食事療法になれるまで戸惑う面が多いかもしれません。
ではなぜ、たんぱく質は制限されなければならないのでしょうか?

体内の余分なたんぱく質は尿素などの老廃物となり、腎臓でろ過されて尿中に排泄されます。腎臓の機能が低下している人がたんぱく質を摂りすぎると.老廃物を排泄するために腎臓の負担が大きくなり、そのことにより腎症の進行を早めてしまうからなのです。

腎症の治療は、たんぱく質の摂取制限などにより腎臓の負担を軽くして、残っている腎機能をできるだけ長く保ち腎不全への進行を防ぐことが目的になります。
しかし、たんぱく質の摂取を減らしてしまうと、1日の必要なエネルギー量を満たすことが難しくなります。そこで、食事の中での比率として炭水化物や脂質を増やして補う必要があります。

もし1日の必要なエネルギー量が満たされなければ、たんぱく質を制限している意味がなくなってしまいます。
なぜなら本来、たんぱく質は血液や筋肉などを作り出す栄養素として体内で利用されるはずなのですがエネルギー補給が十分でないと、本来の目的とは別にエネルギー源として利用されてしまうことになるからなのです。
それを防ぐためには、炭水化物や脂質を増やしそれぞれの栄養素が効率的に利用されるようにしていくとこが大切になります。もちろん血糖コントロールは厳格に行う必要がありますので、炭水化物を増やすことで血糖コントロールが多少乱れるようであれば、薬物療法など食事ではない方法でコントロールします。

また、塩分制限も大切になります。腎症が発症すると塩分が身体に溜まりやすくなりその結果、血圧が上昇します。高血圧は腎症の進行を加速させる重大な原因の一つでもありますので、たんぱく質の摂取方法とともに食塩の摂取も制限します。

下記の表は食事を「減塩食にするこつ」を示したものです。
是非!参考にしてみてください。

〜〜〜 減塩食にするこつ 〜〜〜


漬物は控え目に
汁ものの量は少なく1日1回まで
調味料は小皿にとって食べる
(和えものではなく醤油を小皿で)
香辛料を上手に使う
食酢や柑橘類などの酸味を利用する
油を使って料理する
(油の使用はエネルギー量確保にも役立つ)
加工食品を減らす
(加工食品は一般に塩分が多い)
料理の全体ではなく、料理の表面に味をつける
うまみ(だし)を利用する
献立にめりはりをつける
(食塩は一品に集中して使い、あとは薄味)


薄味にしても食べ過ぎると塩分は摂りすぎます。
気をつけてください。
 
あくまでも、食事療法の指示は医師に処方してもらいますが、下記の表のように
指示エネルギー量や指示たんぱく質量は腎症の進行に合わせて少しずつ変化します。ご参考までに表示しました。
糖尿病性腎症の病期別食事療法の目安
病期 病状 1日当たりの摂取量
  総エネルギー
(kcal/kg/日)
たんぱく質量
(g/kg/日)
食塩
(g/日)
カリウム
(g/日)
腎症前期   糖尿病の食事療法の
エネルギー量
過剰摂取を
さける
摂り過ぎに
注意
制限しない
早期腎症 微量アルブミン尿検査が陽性。
血圧が上がり始める。
25〜30 1.0〜1.2 血圧が高い場合は制限 制限しない
顕性腎症 前期 たんぱく尿検査が陽性。
血圧が上昇
25〜30 0.8〜1.0 7〜8 制限しない
後期 尿中のたんぱく質がさらに増える。
高血圧、むくみが出始める
25〜30 0.8〜1.0 7〜8 軽度の制限
腎不全期 たんぱく尿、高血圧、むくみや貧血などの尿毒症の症状。
心不全の危険性も
30〜35 0.6〜0.8 5〜7 1.5
透析療法期   透析に対応した食事療法
総エネルギーの単位は体重(実際の体重ではなく、標準体重)1kg あたりのキロカリー、たんぱく質の単位は標準体重1kg あたりのグラム数、食塩・カリウムの単位はグラム数。
上記のほか、むくみがある場合には、水分の摂取制限が加わります。
(「厚生省糖尿病調査研究報告書」から引用)

このように、糖尿病から腎症を発症した場合食事療法が複雑になってきます。
血糖のコントロールが如何にその後の生活習慣や食習慣を左右するか理解したと思います。

これからも、食事療法をきちんと守り生活習慣を見直していきましょう。
そして困った時は医師に相談し、栄養士と食事について話をしましょう。




関連記事

「栄養科コラム」の記事一覧