海外旅行へ薬は持っていけるの?!【前編】

お薬の話

今年の5月より新型コロナ感染症が「第5類」に位置付けられたことで海外旅行熱が高まり、各地でパスポート交付率が前年比を大幅に上回っているようです。

久々の海外旅行は万全の体調で楽しみたいところですね。しかし、「いつも飲んでいる薬を持って行きたいけど、空港の税関でとめられてしまうのでは…」と不安になる人もいるのではないでしょうか。
結論から言うと
「大半の薬は渡航先への持ち込みに問題はありません」
が、注意することも多くあります。
そこで、海外旅行での薬の取り扱いについて2回にわたり紹介したいと思います。今回は前編として処方箋医薬品(病院で処方される医薬品)についてです。

薬剤情報提供書(英文)

もし皆さんの中に「英語ができるから大丈夫!!」という方がいらっしゃったとしても安心しずぎないでください。
なぜなら英語が出来ても、薬には商品名と成分名があり、商品名はその国特有のものなので成分名が分からなければ海外では役に立たないからです。実際に薬そのものを現地の医師に見せても困惑されることも多いです。そこで準備しておきたいのが英文で作成した処方薬リストです。調剤した保険薬局などで薬(成分)の名称、1日当たりの分量や用法を明記した英文薬剤情報提供書を作成してもらうと万が一のときに役に立ちます。

薬剤(携行)証明書

入国時の不要なトラブルを避けるために準備しておくとよいものの2つ目は薬剤(携行)証明書です。携行している医薬品が正当な理由で所持しているものであることを証明するものです。服用している薬剤情報だけでなく疾患名などの記載もあるためさらに安心ですね。作成には時間を要します。海外へ行くことを伝えたうえで早めに処方した医師や調剤した保険薬局の薬剤師に相談してみましょう。

英文薬剤連携行証明書(例)

薬剤申請

薬の種類によっては、事前に申請して、許可を取得する必要があります。特に以下の薬は、申請が必要な場合が多いので事前に確認しましょう。

①医療用麻薬:がんの疼痛緩和などの目的で使用している痛み止めの一部

薬の特性上、事前に居住地域の管轄である地方厚生(支)局長から許可を得ておく必要があります。詳しくは、各地方厚生局で確認しましょう。

②向精神薬:睡眠導入剤や安定剤など

自身の治療のために一定量以下の場合は自分が携帯して出入国する場合に限り、持っていくことが認められています。一定量以上になると書類(「処方箋の写し」「医師の診断書」など)が必要となります。また、注意したいのは「薬剤個々に設定された一定量(概ね1か月分を超える量)」を携帯して日本に持ち込む際には輸入確認証も必要になるということです。事前に厚生労働大臣(地方厚生局長)に輸入確認申請書等を提出し、輸入確認証の交付を受ける必要があります。
また、国によっては薬に含まれる成分や含有量などにより持ち込みが禁じられているケースもあります。事前に渡航先の駐日外国公館に確認しておくと安心です。
例)米国  フルニトラゼパム(商品名:ロヒプノール®、サイレース®)

薬剤の剤型

PTP包装入りの錠剤やカプセル剤の場合にはそのまま、瓶入りの医薬品の場合には病院や薬局で交付された瓶入りのままで持参しましょう。服用タイミングが同じ薬を一つの袋にまとめられている(「一包化」といいます)場合には、事前に薬剤師に相談してみてください。

特に注意したいのが粉薬。海外では違法薬物の疑いを掛けられるおそれがあります。他の剤形の医薬品に変更できないか、事前に医師や薬剤師に相談してみましょう。

持ち込みの際の注意点

渡航先の国によっては、郵送による医薬品の持ち込みを一切認めていないところがあります。荷物が多いからといって郵送することは避け自ら持ち込むようにしましょう。
万が一、渡航先で医薬品が不足した場合、安易に日本にあるものを渡航先の国に郵送するよう依頼するのではなく、渡航先の国のルールがどのようになっているかを確認しましょう。

また、機内へ「インスリンは持ち込める?」「吸入薬は大丈夫?」という質問も多く聞かれます。 機内で服用・投与を必要とする液体の医薬品については、機内持ち込み制限の対象となる一般的な液体物には該当しません。喘息の方が使用する吸入薬も同様で、機内で使用する適正な量に限り、客室に持ち込めます。保安検査の際にそれらを持ち込む旨を伝えるとスムーズです。 国内の空港では、事前申告や医師の診断書の提示は基本的には不要ですが、海外空港の保安検査場では英文表記の証明書(先ほどの英文薬剤証明書、薬剤携行証明書など)が求められることがあります。事前に確認しておくと安心です。

ここまでの流れで「いろいろと面倒だな~」「だったら持っていくのをやめようかな~」などと思った方がもしいらっしゃったとしたら…
待ってください!!

海外旅行のために持病が悪化してしまっては元も子もありません。万が一に備え「旅行日数分+1週間分の予備」程度を目安に必要な量を準備、しっかり服薬し、安心安全を心掛けて旅行を大いに楽しんでください。

2023年7月 薬剤科

参考:
海外渡航先への医薬品の携帯による持ち込み・持ち出しの手続きについて|厚生労働省 (mhlw.go.jp)
厚生労働省麻薬取締部ホームページ「麻薬等の携帯輸出入許可申請を行う方へ」
薬は機内へ持ち込むことができますか。 (jal.co.jp)
機内持ち込み・お預かりに条件があるもの|国際線|ANA
海外渡航時の薬の持ち込みについて|お役立ち情報‐沢井製薬

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